今年2回目のブログです。
明日午後から長野県松代に出かける予定です。
本日はあいさつ回りなど忙しく筆不精、遅筆の私にはちと荷が重たいので宝石業界に詳しいM氏に未発表の原稿をいただきましてここに発表させていただきます。
宝石に少しでも知識がある方は最高のルビーはミャンマー産ということは常識です。
以下M氏の原稿です。
ルビー Ruby
組成 酸化アルミニウムAl2O3 + 遷移元素クロムCr
発見地 ミャンマー(?)
鉱物名 コランダムCorundam
硬度9 比重4.00
屈折率 1.762~1.770(複屈折0.008)
結晶 六方晶系
和名 紅玉 (こうぎょく)
結婚記念40年 誕生石7月 曜日石火曜 占星石7/23-8/22
石言葉 パッション(熱情)
国定石 タイ ミャンマー
その他 「午後5時の宝石」
ルビーの赤色は石ごとに微妙に異なる色合いがあり、それぞれに美しい表情があります。
深みのあるビビッドな赤は莟(つぼみ)紅梅(こうばい)色、紫がかったビロードのような赤は紅絹(もみ)色、日没直前の空を赤紫に染める茜(あかね)色、マゼンタに近い鮮やかな赤は洋紅(ようこう)色(しょく)、限りなくピンクに近い透明な赤は梅(うめ)重(がさね)色・・・・。
また、赤と云えば口紅のキーカラー、その口紅の赤色選びにも感性鋭い女性たちは色の達人。その日の装い、心持ち、そしてご自身のテイストと美意識でチョイスして下さい。
ルビーのジェムメッセージ
宝石の王はダイヤモンド、ならば宝石の”女王”、それは申すまでもなく「ルビー」です。
本来無色透明なコランダムという鉱物に、金属元素クロムが微量に混入して、真紅のルビーが誕生します。
どこまでも美しく鮮やかな赤です。
それはクロムという元素が赤いからか、というと決してそうではありません。
では「ルビーは何故赤いのか」――少々むずかしい話ですが、シリーズの初回に当って、その「何故」を学びましょう。
貴方自身の宝石の色に対する理解が一層深まります。
つまりこういうことです――クロム元素が偶然取り込まれて微妙に変化したコランダム結晶に白色光が入射する
⇒ あらゆる色の波長を内在した白色光は、赤系波長だけが結晶内に「吸収」され、他色の波長は結晶外に「透過」する⇒
結果的に結晶が赤系の反射光を発する ⇒ 鑑賞者がその赤を感知する。
だからルビーの「赤」は、鉱物本来の色ではなく、異元素クロムを取り込んで微妙に変化した結晶の色だったのです。
試しに(大胆にも)、真っ赤なルビーをハンマーで粉末にしてその結晶状態を破壊すると、何とコランダム本来の色(無色透明)
に戻ってしまうのです(実際は破壊痕のため白色粉末ですが)。
ルビーのマザーランド(代表的産地)
ところで、ジェムクィーンのルビーの中でも最高に格付けされるのは、ミャンマー(旧ビルマ)モゴク産の石と云われます。
スリランカ、タイ、マダガスカル、タンザニア、ベトナム、モザンビーク等々、産地としてメジャーな国が居並ぶ中で、ミャンマー産ルビーの価値が突出する理由は、その美しさとクオリティです。一般に”加熱処理”を施して美しさを確保して来た宝石ですが、モゴク産ルビーだけはナチュラルなのに美しい。
”ピジョンブラッド(鳩の血)”の呼び名は、真紅で透明、しかもナチュラルなモゴク・ルビーにこそ与えられたものです。
そして上述したように、そのナチュラルレッドも様々な赤なのです。
付け加えれば、クロム分を特に多く含むミャンマー産ルビーは、特有の赤紫色蛍光性を有するので、自然(光の紫外線(又は室内紫外線ライト)で赤紫のビロードのような優しい蛍光を発します。
[新産地情報:「モザンビークのナチュラルルビー」](執筆リクエスト制)
ルビー選びのアドバイス (業界秘)
市販のルビーの大半が加熱処理石であることは良く知られるところです。ものによっては、融点温度に近い1,650℃から1,800℃で概ね3昼夜加熱・冷却を繰り返し、透明且つ鮮やかな赤色が得られます。それにより鉱物としての耐久性は明らかに劣化し、コランダム自慢の硬さ(硬度9)の維持が危ぶまれる場合も出てきます。
更に最近は加熱に加え、鉛ガラスやビスマス系赤色着色ガラスの含浸処理石(処理地は主としてタイ)も市場に少なからず流入し、各国鑑別機関は警戒を呼び掛けています。処理履歴が正しく公開されたものを、それ相応の価格で購入する限りは何ら問題ありませんが、複雑化する流通途上で履歴開示が不十分となり、価格がひとり暴走する不幸な例は跡を絶ちません。
現在、加熱処理石は鑑別機関で識別・看破し得るものです(ただし通常の鑑別料金に別途費用が必要)。特に高価なルビーを求める時は、コストを惜しまずにAGL*加盟の鑑別機関に”再鑑別”依頼をお勧めします。 (*社団法人宝石鑑別団体協議会 Tel03-3835-8267 www.agl.jp)
歴史の中のルビー
ルビーは「宝石の女王」と前述しましたが、近世後期になってダイヤモンドがカット(ブリリアントカット)技術開発により王座に君臨する前までは、実にこのルビーが紛れもない宝石の王座にありました。歴史的な様々な文献、例えば「聖書」や古代ローマ「プリニウス博物誌」等に登場する宝石の最高位は常にルビーでした。
ルネサンス期の名工で貴金属細工の祖とも云われるベンベヌート・チェリーニが書き残した記録に、次のような価格に関する記載があります。宝石界は圧倒的なルビーの天下だったのです。
・ルビー 800スクード
・ダイヤモンド 100スクード
・エメラルド 400 スクード
・サファイア 10スクード
(1スクードは当時の英ポンドで●●)
ルビーのトリビアから
■歴史上稀代の宝石コレクターで知られるロシアの女帝エカテリーナII世(1762年即位)に、忠誠の証しとしてスウェーデン王グスタフ・アドルフが贈ったのは極上のルビー。その美しさが後の両国間に平和を約束したということです。
■また、歴史に残るルビーとしては、「ミスター・ルビー」と謂われ英国の名門宝石商にしてミャンマー・モゴク鉱山(上述)開発の父でもあるエドウィン・ストリーターが、1875年自ら採掘してロンドンに持ち帰った非加熱「マンダレールビー」があります。
”至上の赤”と称賛されて特大48.02Ctクッションカットに研磨され、18ピースのダイヤモンドで取り巻く超豪華なブローチになりました(指輪では重過ぎます?)。後にサザビーズ・オークションで米国大手宝石商に買われ(1988年)、現在はあるセレブの家宝となっています。
■「グランサンク」(5大宝石商)の一つヴァン・クリフ&アペルが見出した石留め技法「ミステリーセッティング」。
カリブルカット(微細な正方形)のルビーを絨毯のように敷き詰めても爪がまったく見えない。
1933年同社が製造特許を取ったこの離れ技は、当時から「偉大な手」と崇められていますが、現在これをやってのける名工は、実に世界でたった一人のようです。
■そして、映画「プリティウーマン」の中での話ですが、街娼を演ずるジュリア・ロバーツを一夜の相手に選んだリチャード・ギヤ扮する青年富豪が、やがて彼女に真実の愛を抱きます。
実在の宝石店Fred自慢のルビーのネックレスが、そこで重要な脇役を演じます。街の娼婦から気品に満ちたレディーに見事な変貌を遂げた彼女を表現するには、そのルビーが最も相応しい小道具だったのです。
■さて、話題はがらりと変り、文字を書くときフリガナのことを「るび」と云いますが、それがまさに宝石のルビーから来ています。印刷術の歴史的先進国英国では、5.5ポイントの活字を「ルビー・サイズ」といい、また6.5ポイントを「エメラルド・サイズ」、3.5ポイントを何と「ブリリアント・サイズ」と呼んだのです。それが日本にはなぜか、「ルビー」がサイズの呼称としてでなく、「フリガナ」すなわち「るび」という意味で伝わった訳です。
因みに米国では、5.5ポイントはルビーならぬ「アゲート(めのう)」サイズと呼ばれます
(参考までに、お読みのこの文章は10ポイント活字です)。
[トリビア追加:
「マリーネ・ディートリッヒの運命的なルビーのブレスレット」、「ヘンリー8世王妃の不吉なルビー」](執筆リクエスト制)
インフォメーション 博物館で出会える有名ルビー
・「モゴク産ルビーの結晶とルース」(各196.1Ct,15.97Ct) スミソニアン自然史博物館(Washington, USA)
・「ルビーの王冠」(キャスパリー・リーレンダー作) レジデンツ博物館(Munchen, Germany)
・「ミャンマー産ナチュラル・ルビー」3.02Ct(リング) アルビオンアート・コレクション(ホテルオークラ、東京)
以上
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